「会話分析」の応用例

私が研究のMethodologyである,「会話分析」を応用した事例です。『朝日新聞』(11/05/12)より抜粋します。西阪先生は「会話分析」の権威といわれている方です。

 大久保さん「同意せず」 専門家が会話分析 明治学院大・西阪教授の研究チーム「質問の仕方に問題」
 山形大生だった大久保祐映(ゆう・は)さん(当時19)が119番通報後に遺体で見つかった問題で、会話分析が専門の西阪仰(あおぐ)・明治学院大教授の研究チームが通報内容を分析し、「大久保さんはタクシーで病院に行くことに同意したわけではなかった」と結論づけた。山形市消防本部は自力受診ができると判断して救急車を出さなかったが、西阪教授は「質問の仕方に構造的な問題が潜んでいる」と指摘している。
 分析したのは西阪教授と研究チームの小宮友根さん、早野薫さんの3人。
 西阪教授らがまず注目したのは、「歩けるの?」という通信員の質問に、大久保さんが「はい・いいえ」で答えず、「動けると思います」と言い換えて返答している点だ。「歩ける」より能力が低い「動ける」という表現を選び、「と思います」との推測的表現を付けて、「動ける」という主張も弱めている。
 「実際は歩けないのに同意に近い形で答えた可能性がある」と西阪教授。「いいえ」と答えなかったのは、「『非同意』は表明しづらく、日常会話でもしばしば遠回しの表現になるのと同じ」という。
 西阪教授らはタクシーを巡るやり取りも分析。「タクシーとかで行きますか?」との質問に、大久保さんは「番号がわかれば自分で行けると思います」と答えているが、「通信員の提案に同意しているわけではない」と結論づけた。
 「はい・いいえ」の回答を避け、質問にある「行きます」という表現を「行ける」に置き換えたうえ「と思います」と続け、「行ける」の主張も弱めているからだ。「番号がわかれば」と条件を付けたり、「あー、はぁ」と言いよどんだりしているのも「『非同意』に現れる特徴にほかならない」という。
 遺族が山形市を相手に損害賠償を求めている裁判で、市側は「大久保さんが『自分で動ける』『タクシーで行ける』と言った」ことなどから対応は適切だったとしている。西阪教授らの分析は、市側の主張の根拠に疑問を投げた形だ。
 その上で西阪教授は「通信員に悪意はなくても、会話の構造に問題がある。どんなタイミングでどう質問すべきか、消防は無頓着すぎる」と警鐘を鳴らす。
 通信員は「出動か不出動か」を判断するため、手順に従って「歩けるの?」と尋ねたとみられる。だが大久保さんにとっては、「どうされたんですか?」の問いに「ずっと体調悪くて」と答え、さらに具体的に説明しようとした時に投げかけられた質問だった。
 「『熱はありますか?』と同じように、症状の説明を促す質問に聞こえたはず。この質問が出動か不出動かの判断に使われているとは想像できなかっただろう」と西阪教授。通信員が大久保さんの返答にある「非同意」の特徴を受けとめられなかったのも、「質問の目的」の認識が双方で食い違っていることに起因すると考えられるという。
 「非同意」の意思が通じないまま不出動の決定が下される事態を避けるには、どうすればいいのか。
 「タクシーで行きますか?」のような、「はい」など同意の言葉が不出動につながる質問は避ける。「救急車を出したほうがいいですか?」「タクシーとかで行くのは難しいですか?」のように同意が出動につながる質問にする。西阪教授はそうした対応を提案している。(神宮桃子)
 
■ 大久保さんと通信員のやりとりの一部
 消防 大久保さんね、はい、わかりました。どうされたんですか?
 大久保さん ずっと体調悪くて…えっとー、ふぅ…
 消防 歩けるの?
 大久保さん あ、動けると思います。
 消防 自分で動けるの?
 大久保さん はい…
 消防 あのー、救急車じゃなくて、タクシーとかで行きますか?
 大久保さん あー、はぁ…、えー、タクシーの番号がわかれば自分で行けると思います。
 消防 104に聞いて…あの病院は、あのお教えするので

 ◇  会話分析 
 会話の音声を文字に起こし、声の大きさやイントネーション、発話の区切りなどを書き取って分析する。1960年代に米国で社会学の分野として始まり、言語学にも広がっている。患者にどんな質問をしたらいいかなど、心理療法や教育などの分野に応用されている。
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